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大阪高等裁判所 平成元年(ネ)1681号 判決

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  (主位的)

被控訴人らと控訴人間において、控訴人が原判決の別紙物件目録記載の土地について所有権を有することを確認する。

(予備的)

被控訴人らと控訴人間において、控訴人が原判決の別紙物件目録記載の土地について、これを寺院境内地として使用する権利を有することを確認する。

3  被控訴人京都市は、控訴人に対し、原判決の別紙物件目録記載の土地を明け渡せ。

4  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

二  被控訴人ら

主文と同旨

第二  当事者の主張及び証拠関係

当事者双方の主張及び証拠の関係は、次のとおり付加、訂正するほか原判決事実摘示及び原当審記録中の証拠目録記載のとおりであるからこれを引用する。

原判決の別紙物件目録中の各「三四三番二」をいずれも「三四三番の二」と改める。

原判決三枚目表三行目の「学童教育のため、」の次に「本山である知恩院及び」と付加する。

原判決五枚目表五行目の「三四三番地先」を「三四三番の二先」と、裏五行目の「七日」を「八日」とそれぞれ改める。

原判決七枚目裏九行目の「従前から」の次に「工作物又は竹木を所有するため」と付加する。

原判決八枚目表一〇行目の「以上の経過からして、」を「以上の経過及び請求原因4のとおり被控訴人京都市は控訴人から本件土地を賃借し、当時京都府知事もこれを許可したことからすれば、」と改める。

原判決九枚目表八行目から九行目にかけての「その結果、原告には」を「また、同法九条により旧国有財産法二四条のいわゆる「みなし無償貸付」規定が削除されたので、控訴人は」と改める。

(控訴人)

原判決は、明治政府は社寺上知令により社寺領のうち祭典等に必要な土地を新境内地として残し、その余の土地をすべて上知(新政府に返還)させたと認定しているが、右新境内地については社寺の占有支配が存続し、これが容認されていた。その後明治七年一一月に太政官布告(改正地所名称区別)が発布され、右新境内地を含めて寺院の土地は原則として地券を発行せず地租を課さない官有地第四種とされたが、右は単に徴税上の便宜的措置にすぎず、これにより右新境内地の所有権が国に帰属するものではない。また、明治政府は、地租改正事業により民有地が誤って官有地に編入されたりなどすることがあったので、これを是正するため、明治一五年一二月一二日太政官布告五八号請願規則に基づいて県知事に対する下戻出願を認め、さらにこの出願が拒否された場合明治二三年法律第一〇六号によって行政裁判所に出訴する方法を認めたが、右下戻申請がされなかったこと自体によって結果的に土地所有権の得喪変更を生ずることはなかった。更に、原判決は、大正一〇年四月制定の旧国有財産法二四条により寺院の境内地は無償にて当該寺院に貸与される扱いとなったとしているが、これも明治政府が行った上地が境内地に対する寺院の権限を喪失させたものではないことを前提としているものと理解することができる。結局、明治以来控訴人の右新境内地に対する支配には何ら変化がなく、それゆえ、右新境内地の一部である本件土地について控訴人の所有権が認められるべきである。

控訴人が、地域住民の要望に応え、全くの善意で本来明治政府ですら認めていた境内地、従ってまたそれは下戻手続きや、いわゆる第一次、第二次境内地処分法による譲与の対象となった土地を、被控訴人京都市の小学校に貸与したために(右貸与には、知事、被控訴人国の同意を得ている。)控訴人の土地として認められなくなったという解釈は正義、公平に反する。

(被控訴人国)

一  控訴人は、「改正地所名称区別」(明治七年一一月七日太政官布告第一二〇号)は、寺院の土地を原則として官有地第四種としたが、右は単に徴税上の便宜的措置にすぎないと主張するが、明治政府は、明治六年ころから着手した地租改正事業において、右「改正地所名称区別」を布告し、全国の土地を官有地と民有地の二種に大別したうえ、官有地を第一種ないし第四種に、民有地を第一種ないし第三種に細分するとともに、一地一主の原則により封建的支配権とは異質の近代的土地所有権を現実に確立したのである。この官民有区分の具体的基準を定める「地所処分仮規則」(明治八年七月八日地租改正事務局議定)によれば、寺院境内地は、寺院が買い取ったなど明らかにその所有権を取得した証拠のないかぎり官有地第四種に編入され(第七章第二節第一条)、右のような民有の証拠のあるものは民有地第一種ないし第三種に編入された(同第二条)。右官民有区分は、地租改正に際してなされたものではあるが、個々の土地について近代的土地所有権を現実的に創設するとともに、これを官民のいずれかに帰属させる形成的な創設処分であって、単なる徴税上の便宜的措置と解すべきではない。そして、甲第二号証の寺院明細帳によれば、本件土地を含む控訴人の境内敷地が、右官有地第四種に編入されたことが明らかであるから、本件土地は被控訴人国の所有に属していたというべきである。

二  下戻とは、明治初年の地租改正に伴う官民有区分において、民有の証なきものとして官有地に編入された土地につき、民有たるべき証左がありながらこれを明らかにしなかった者に対する救済措置として、申請者に対し新たにその官有地の所有権を移転して民有地とするものである。この下戻を最終的に法制度化したものが、「国有土地森林原野下戻法」(明治三二年法律第九九号)であり、地租改正等により官有に編入された国有地について同法に基づく下戻判決がなされると、下戻申請者は新たにその土地の所有権を取得する。したがって、地租改正に伴う官民有区分において官有地に編入された土地は、右下戻法等により下戻されないかぎり、国有に属するというべきであり、また、右下戻法に定める期限(明治三三年六月三〇日)までに下戻申請しなかったときには、官有地編入を争うことができなくなるのである。

(被控訴人京都市)

控訴人の当審における前記主張を争う。

理由

一  当裁判所も、控訴人の本訴請求は失当としてこれを棄却すべきであると思料する。その理由とするところは、次に付加、訂正するほか原判決の理由説示と同一であるから、これを引用する。

原判決一〇枚目表七行目の「第二七号証、」の次に「第三四号証、」と付加し、九行目の「第二三号証、」を「第二三ないし第二五号証、」と改める。

原判決一〇枚目裏二行目から三行目にかけての「原本の存在と成立を認める乙第五号証の一ないし五、成立を認める乙第六ないし第一〇号証、」を「成立を認める乙第五号証の一ないし四(いずれも原本の存在に争いはない。)、第六ないし第一〇号証、」と改める。

原判決一一枚目表一一行目の「寺院の土地については、」の次に「右新境内地を含めたうえで、」と付加する。

原判決一一枚目裏一行目の「官有地第四種と規定したこと。」を「官有地第四種と規定し、その後定めた「地所処分仮規則」(明治八年七月八日地租改正事務局議定)でも、民有地の証なき寺院敷地(石新境内地を含む)を官有地第四種に編入(第七章第二節第一条)し、民有地の証ある寺院敷地を民有地第二種に編入(同第二条)すると規定したが、他方で、地租改正等で誤って官有地に編入された寺院敷地等を救済するため、「国有土地森林原野下戻法」(明治三二年四月一七日法律第九九号)等を制定し、明治三三年六月三〇日までに下戻申請をし、地租改正により官有地に編入された土地につき所有の事実を証明した者は、下戻を受けてその土地の所有権を取得することができるとしたこと。」と改め、四行目の「境内地」を「新境内地」と改め、六行目の「寺院明細帳」の次に「(これは内務省達により同省への届出を義務づけられていた。)」と付加し、七行目の「境内地五五四坪余について、」を「新境内地の一部五五四坪余(本件土地を含む)について、」と改め、八行目の次に「さらに、右勝圓寺には、右新境内地について、明治三三年六月三〇日までに前記「国有土地森林原野下戻法」による下戻申請をした形跡が全くないこと。加えて、明治四二年一二月ころ右勝圓寺は隣接する小学校から新境内地の一部七〇坪余を校舎建築用地として取得したいとの交渉を受けてこれに賛同し、その結果内務省から京都市へ右土地部分の譲与がなされ、明治四三年四月一日右土地部分について内務省の所有権保存登記がなされ、同日京都市への所有権移転登記がなされていること。」と付加し、一一行目から末行にかけての「寺院に供する雑種地は、無償にて当該寺院に貸与される扱いとなったこと。」を「従前より引続き寺院に供する雑種地は、その用に供する間無償にて当該寺院に貸与したるものとみなされたこと。」と改める。

原判決一二行目表一行目と三行目の各「境内地」をそれぞれ「右新境内地」と改め、一〇行目の次に「そして、同法九条により旧国有財産法二四条の前記無償貸与規定が削除されたので、寺院に譲与されずに国有地として残った境内地については、同条による土地使用権限を削除することになったこと。」と付加する。

原判決一二枚目裏一一行目の「三右認定事実によれば、」から同一三枚目表四行目の「認められる。」までを「三右認定事実を総合すると、明治政府は、徳川時代から社寺が前近代的形態で領有してきた広大な土地を政府に返還させるため、明治四年社寺上知令を公布し、これによって祭典等に必要な新境内地を除く領有地を社寺から上知して国有化したが、右新境内地についてもこれを直ちに民有化したわけではなく、その後推し進めた地租改正事業の中で、前記「改正地所名称区別」及び「地所処分仮規則」等により、右新境内地を調査分類し、民有の証明あるものを民有地に編入した他はすべて官有地第四種に編入して国有化し、この官民有区分により右新境内地についての近代的土地所有権を確立させるとともに、その帰属を創設的に明らかにしたものであることが認められる。そして、前記「改正地所名称区別」及び「地所処分仮規則」の内容、内務省への届出を義務づけられていた前記寺院明細帳の記載及び勝圓寺の新境内地の一部七〇坪余が学校用地として京都市に譲与される際前記のとおり明治四三年四月内務省に所有権保存登記がなされていることをあわせ考えると、本件土地を含む勝圓寺の新境内地は前記官民有区分により官有地第四種に編入され、これより創設的に国有地化されたことが推認できる。この国有地化された新境内地については、前記のとおり明治三三年六月三〇日までに「国有土地森林原野下戻法」による下戻申請がなされていないので、右期限の経過により、官有地第四種への編入の効力が確定したといえる。また、前記認定事実によれば、本件土地は、旧国有財産法二四条により、戦前は国から無償で勝圓寺に貸与され、さらに昭和九年ころ勝圓寺から京都市に小学校の敷地として有償貸与されていたが、戦後の第二次境内地処分法による譲与申請から除外されたため、国有地として残存し、現在に至っていることが認められる。」と改める。

原判決一三枚目裏八行目の「その結果、」を「また、同法九条により旧国有財産法二四条の無償貸与規定が削除されたので、」と改める。

原判決一四枚目表三行目の次に「また、控訴人は、本件土地を控訴人が、被控訴人京都市の小学校に貸与したために控訴人の土地として認められなくなったという解釈は正義、公平に反する旨主張するが、右主張も採用できないことは、既に説示したところから明らかである。」と付加する。

二  以上によれば、控訴人の請求を棄却した原判決は相当であって、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 大久保敏雄 裁判官 妹尾圭策 裁判官 中野信也)

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